国民皆保険ってなに?

国民皆保険(こくみんかいほけん)という言葉を、最近はあまり耳にしなくなりました。かつては珍しいものだったのに、今では当たり前のものになったからかも知れません。国民全員が健康保険に加入する仕組みのことを「皆保険」と言い、わが国ではごく普通のことで、特に有り難いと感じる人は少ないでしょう。英語では、ユニバーサルヘルスケア(Universal health care)とか、ユニバーサルヘルスカバレッジ(Universal health coverage)とかと言います。わが国では、1958年に国民健康保険法が制定され、61年に全国の市町村で国民健康保険事業が始まったことで「皆保険」が達成されましたが、当時としては画期的なことだったのです。

1948年に世界各国がサインした世界人権宣言によって、すべての人が健康・福祉に関する保障を受ける権利持つことが確認されています。わが国においても、その精神に沿った形で、制度が確立されたわけですが、いつでも、どこでも、誰でも、一定の医療サービスを受けられるというのは幸せなことです。かつては、お腹が痛くてもお金がなくて病院に行くことができずに「寝ていれば治る」と我慢している間に亡くなってしまう、というようなことが起こり得ました。今では、まずそんなことはありません。わが国では、すべての人に健康保険への加入が義務付けられており、それによって多くの命が救われていると言えるでしょう。


お金持ちほどたくさん払う!?

民間の保険の場合には、リスクに応じて保険料が決まります。たとえば自動車保険では、運転歴が短く技術の劣る若い人ほど保険料が高く、慎重に運転する中高年は安くなっています。年代別の事故率に、保険料がリンクしているわけです。火災保険では、燃えにくい鉄筋コンクリートの建物よりも、燃えやすい木造家屋の方が保険料は高くなっています。

生命保険においては、病気になりやすく死亡確率の高い高齢者ほど保険料が高いのが普通です。ところが、健康保険においては、こうした「リスクの高さ」とはまったく関係なく、所得によって保険料が決まる仕組みになっています。この点が、民間のさまざまな保険との決定的な違いです。


能力に応じて支払い、必要に応じて受けとる!?

社会保険全般に言えることですが、「保険料」は「払える人から多く取る」という考え方です。給付については、必要なときに必要な人に与える、です。保険システムを通じて、裕福な人から貧しい人へと、所得が移転する仕組みになっているわけで、こうした制度を「所得再分配」と言います。しばしば「民間に任せればいい」といった議論もなされますが、健康保険などの社会保険は、民間に任せれば裕福な層にしかメリットが及ばないため、国が運営しています。金持ち専用の健康保険を作ればかなり安い保険料で運営できるはずですが、低所得層向けの保険は収入に対して高すぎるものになってしまうのです。

所得税などの税金も同じです。所得に応じて税金を納めるわけですが、公共サービスは誰でも平等に受けられます。たくさん税金を払っているからといって、専用の道路を走れたり、高級図書館を利用できることはありません。国民皆保険によって、低所得者でも払える水準の保険料の健康保険が実現できました。それでも払えないという人には、生活保護という仕組みでカバーするようにもなっています。生活保護(公的扶助)を受けている人は、医療がタダで受けられます。わが国では、どんなに貧しくても、必ず病院に行けるようになっているのです。

わが国の健康保険制度の確立は、先進国と比べて決して早かったわけではありません。その代わり、サービスの内容や個人の拠出額は、とてもバランスがとれたものになっています。WHO(世界保健機構)から、「最高水準」とお墨付きが得られるほどになっているのです。